2月14日(木):デール・カーネギーおじさん
今日は時間があるので、もう一本書いておこう。書いて残しておきたいと思うことはたくさんある。むしろ追いつかないくらいだ。
先週、一人で飲みに行った時のことだ。隣席のおじさんに絡まれてしまった。よくある話だ。絡まれると言っても、別にケンカをふっかけられたとかそういうわけではない。自分たちの会話に僕を招き入れようとしただけだ。
日が違えば、そういう酔っ払いのおじさんの相手もできるのだけれど、その日は気分が重く、とても疲労感もあって、相手をする気力がなかった。それでも向こうが絡んでくるので、渋々相手をしていた。
そのおじさん、設計士のようで、社長さんなのだそうだけれど、毎日読んで自分に言い聞かせているものがあると言う。そして僕にそれを見せてくれた。「ああ、デール・カーネギーですね」と僕は一目見て分かった。
カーネギーと言えば、「人を動かす」などの著書で有名だけれど、おじさんくらいの年代の人には特に訴えるものがあるのかもしれない。僕も以前勤めていたクリニックの所長さんから読むように勧められた。カーネギーの法則を実践するカーネギー・コースにも参加したけれど、それは挫折した。コースは本当にビジネスマンのためのもので、当時の僕の生活ではちょっと無理があった。例えば、会議での発言の実習などがコースではあるのだけれど、会議の場なんて当時はなかったので、課題をやるのにいつも苦労したのを覚えている。でも、本は繰り返し読んだ。
「人間として大切なことが書いてある」と、そのおじさんは言う。僕もそれは認める。でも、カーネギーの本は自己認識を深めてはくれないのだ。そこはあの本の弱点だと思う。ルールと、そのルールを実践した人たちの実例が豊富に載せられているので、普通に読んでも面白いのだけれど、自己理解にはつながらない。そのルールたちを実践していけば、いろんな場面で有益だとは思う。でも、人間関係が上手く行くルールよりも、何が僕の人間関係を邪魔しているかを知りたいと僕は思っていた。それを知る手がかりはカーネギーの本にはなかったのだ。
あのおじさんも、カーネギーを勉強する傍ら、自己理解の勉強もしていれば良かったのにと思う。どうして酒を飲むのか、どうして一人で飲んでいる僕を仲間に入れたいと思ったのか、自分がどういうことを望んでいたのか、そういうことに目が向くだろう。たとえ後になってからでも、そういうことに目を向けたくなるだろうと思う。そこで自分についての発見があるかもしれないけれど、カーネギーは自分を発見するための法則は述べてくれていないのだ。
まあ、そのことがあって以来、一人で酒を飲みに行くのが億劫になってきている。最近、一人で飲みに行くと、ほぼ100%の確率で誰かに絡まれるのだ。その人たちの相手をするのが今は勘弁して欲しいと思う。悪い人たちではないのだけれど、独りにしておいて欲しいと願うのだ。酔っ払いにも困ったものだね。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)