<#013-1>浮気問題に関して
(夫婦問題の三本柱)
さて、浮気という問題を取り上げていくのでありますが、これに関してはあまり述べることもなさそうであります。
夫婦問題の三本柱というものが私にはありまして、それは離婚、DV、浮気(不倫)であります。離婚やDVの問題を持ち込むクライアントは多いのでありますが、浮気問題を持ち込む人は、他の二つの柱と比較して、少ないのであります。そのため、あまり述べることはなさそうに感じております。
また、この三本柱は相互に関連することもあります。夫のDV問題があるので愛人と浮気をするようになり、この浮気から夫とは離婚に至るといった妻もおられました。
(定義)
とりあえず、定義をして、用語を統一しておきたいと思います。
不倫といった言い方もできるのでありますが、本章では浮気で統一しておきます。
浮気は夫-妻-愛人の三者によって構成されます。夫が浮気することもあれば、妻が浮気することもあります。浮気する側の人を浮気者と呼ぶことにしたいと思います。いずれにしても、そこに配偶者以外の第三者である愛人の存在があって浮気が成立するものであります。
(どこからが浮気か)
しかしながら、そのように定義したとしても、曖昧さが残るのであります。
もっとも判断が難しいのは、どこからが浮気とみなされるのか、その人物はどこから愛人と評価されるようになるのか、その境界線の部分にあると思います。
この境界線が夫と妻の間で異なることもあります。妻は夫とその女性が一緒に仲良さそうに歩いていたから浮気をしていると訴え、夫はその女性とは性的関係をもっていないから浮気ではないと言い張るなどといった例もあるわけであります。
どうも浮気の問題は外的な基準が欠けているように私には思われ、当事者の感情によってかなり左右されてしまうようである、という印象を受けるのであります。
いくつかのケースでは、確かにそれが浮気なのかどうかが判然としないのであります。クライアントは配偶者に浮気されたと訴えるのですが、確かに浮気であるという根拠が希薄である例もあり、いささか困ることが私にはありました。
とりあえずでありますが、以下のような基準を設けておこうと思います。
まず、もっとも確実なのは、浮気者が浮気をしていたと自白するというものであります。これほど確かなものはありません。しかし、配偶者が詰め寄って、半ば強制的に自白させたというケースにおいては、私は少し保留にすることにしています。
次に虚偽と隠蔽が見られるかどうかというところが判断の役に立つでしょう。もし、その第三者がただの知人であったり友人であったりするなら、浮気者はウソをつく必要もなく、その人のことを配偶者に隠す必要もないでしょう。何か後ろめたいところがあるので、その第三者の存在とか関係とかを配偶者には隠し、ウソをつくのでしょう。
ただし、これとて当てにならない場合があります。浮気者が配偶者に開けっぴろげに言うといった例もあるからであります。
その他、浮気者がその愛人と性的関係、肉体関係を有しているかどうかということも判断の基準になるかと思うのですが、これはその現場を目撃しない限り立証できないものであります。
(浮気の証拠)
もし、妻の立場の人が来談して、夫が浮気をしていると訴えれば、ひとまず私は彼女の言葉を信じるでしょう。しかし、夫が本当に浮気をしているかどうかは、それを確かに示す証拠がない限り、私は保留にすることにしています。というのは、もし夫が浮気などしていなかったとすれば、妻と同じように夫が浮気をしていると私がみなすことは、夫に対する名誉棄損となってしまうからであります。そういう事態は避けたいとも思うのであります。
浮気の問題というものは、私からすると、そうした微妙な問題をはらんでくるのであります。浮気を示す証拠がない限り、その人が浮気をしているかどうかの判断は保留にしたいと思うのですが、これは浮気をされた側からすると無理解な態度として映ってしまうこともあるようであります。
(来談した側を取り上げる)
もし、夫に浮気をされた妻が来談した場合、私のクライアントはこの妻であり、夫ではありません。従って、夫がなぜ浮気をしたのかどうかということは取り上げないことになるのです。あくまでもクライアントである妻の援助をしていくことになります。もし、傷ついているのであればそれをケアし、立ち直れないのであれば立ち直るように援助するつもりであります。一緒になって夫を攻撃するというようなことはしないのであります。
そして、これは浮気された側にとってみればさらに冷たい態度に見えることと思うのですが、人間関係の問題では誰か一人にだけ原因があるということはほとんど見られないものであります。浮気の問題では、夫、妻、愛人それぞれが原因を担っているものであると私は考えています。三者三様の問題が絡み合っているものと考えています。
従って、浮気をされたという妻が来談した場合には、この妻の抱える問題を話し合っていくことになり、浮気した夫のことは、基本的に、除外されるのであります。
基本的にと言ったのは、夫婦が一緒に住んでいる以上、妻の抱えるものに夫も関与しているからであり、その限りにおいて夫のことも取り上げられることがあるからであります。
(とてもナイーブな問題である)
以上述べたことから、浮気問題というものが意外とナイーブな問題であるということがお分かりいただけるでしょうか。
当事者には浮気の存在は明らかだと思われていても、確かな証拠に欠けていると保留にしなければならず、浮気の疑いだけで浮気者を告発してもいけなくて、加えて、浮気の定義そのものが曖昧であるという状況があるわけであります。とかく、この問題は、世間の人が思っているよりも、取り上げるのが難しいものであるように私には思われています。
さて、次項から浮気に関するさまざまなテーマを取り上げ、後に事例なども述べることができればと思います。
(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)