1月9日:Tの焼き鳥屋 

1月9日(金):Tの焼き鳥屋 

 

 昨日、一昨日はそれなりに仕事が上手く行って、今日は落ち着いて休日を過ごせそうに思った。 

 

 1月に入って一週間ほど経ったけれど、もう2月の予定が半分以上埋まってしまった。なんとしてでもそれはこなさなければならないし、これからも増えることを覚悟しておかないといけない。 

 

 昨夜、感激したことがある。いつもの行きつけの飲み屋に行く。時々お会いする人たちと一緒になった。店を出ると、彼らがいて、「一緒に飲みに行きましょうよ」と誘ってくれた。終電で帰るのを条件に僕は承諾した。 

 楽しい時間を過ごさせてもらった。おまけに支払いはその人がもってくれた。こんな風にご馳走になるなんて、とても久しぶりだと思ったし、あんな風に人にご馳走したり、接待できるっていうのはいいなあと思う。 

 

 今日は午後から河原町の方へ出る。 

 買わないでいようと思いながら、古書店に入ると、思わず買ってしまった。サンドラー『患者と分析者』ともう一冊買ってしまう。 

 サンドラーの本は、以前勤めていたクリニックに置いてあって、今日、見かけるまでその存在をすっかり忘れていた本だ。 

 当時の雇い主だったN先生もこの本を読んでいたのかなと思うと、懐かしさ半分、ライバル心半分に掻き立てられて、ついつい買ってしまったのだ。 

 その後、同書を2章ほど読んだけれど、良さそうな本だと思った。 

 

 せっかくここまで来たのだからと、知り合いの焼き鳥屋に顔を出そうと思い立つ。 

 道中、たばこのキャンペーンに出くわす。僕に合った銘柄を選んでくれると言うのだ。そして簡単な心理テストをする。僕から見ると、ああ、今はこの辺りのことが調べられているなというのも分かる。例えば「趣味は何ですか」という問いがあって、選択肢がある。僕は自分に該当するものを選ぶ。知的か行動的か、外交的か内向的かが、その選択肢に含まれていた。 

 まあ、この手のキャンペーンはどんなものであれ、サンプルをもらえるという点だけがメリットだ。そのために付き合っているようなものだ。 

 

 友達のTの焼き鳥屋に入る。初めて会った頃、Tは20歳くらいだったと思う。居酒屋でバイトしていて、ビール一杯で顔が真っ赤になるような奴だった。今でも酒はあまり強くないようだけど、それでも一つの店を任されるようになったのだから大したものだ。 

 ただ、10年経っても、Tの「のほほ~ん」とした雰囲気は相変わらずだ。 

 

 地元に戻ると、ついでにと思い、昔通っていたバーに立ち寄る。 

 そのバーのマスターたちのことを僕はとても好いていたのだけれど、数年前から嫌気がさしていた。以前はそんなことなかったのに、マスターたちがだんだんきつくなってきたのだ。きついことを言うようになったのだ。僕も一度ならずムッときたことがあって、それからだんだん足が遠のき、最後の決定打から行くのを止めようと誓ったのだ。 

 二度と行くかとまで思っていたのだけれど、良かったころの思い出もあって、気持ちは揺らぐ。いつまでも仲違いしているより、適当なところで和解する方が大人気があるのじゃないかとも思うので、寄ってみることにした。 

 一杯だけ飲んで帰ったけれど、マスターたちも幾分穏やかになっているように感じた。時々、棘があるのだけれど、それほど気にするほどのこともなかった。顔を出しておいて良かったと思う。 

 

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

 

(付記) 

 Tの焼き鳥屋も、お店は残っているけど、Tが辞めてしまったそうだ。あの店にも行く目的がなくなった。もう一軒のバーの方も、今はすっかり足が遠のいてしまった。別れたり、会わなくなった人たちも多い。まあ、人間関係にはつきものであることだが。 

(平成29年2月) 

 

 

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