11月24日(金):生活と臨床におけるパンセ集(3)
(3A)過去
過去は、どれだけ問題のある過去であれ、問題にはならない。問題になるのは過去ではなく、過去が紛れ込んだ現在である。現在こそが問題なのだ。
(3B)過去は変わらないのではない
過去は変えられないと信じている人がいる。半分は正しくて、半分は間違っている。彼らが過去は変えられないと言う時、それは過去の再現を食い止められないということを意味している。
過去は繰り返される。我々が将来において経験することは過去において既に経験していることである。かつて怖い父親に怯えていた人は、その後、怖い先生に怯え、今では怖い上司に怯えている。過去に出会った人とこれからも会うのだ。それは過去の繰り返しである。繰り返される過去とは、その過去が変わっていないことである。
過去が変わるとは未来が変わるということに他ならない。かつて経験したことが繰り返されなくなった時、過去が変わったのである。変わらない過去が繰り返されるのだ。
(3C)過去と他人は変わる
過去と他人は変わらないと人が言う時、その過去と他人は客観的な存在である。それは主体を欠いており、ただ、現実に在るという在りかたをしている存在である。主体にとって、そのような存在はまったく意味がない。
過去や他人が個人にとって意味がある時、そこにはその個人の何かが付与され、その過去や他人にある種の性質が帯びているのである。その性質を我々は現実と呼んでいるだけかもしれない。
過去や他人が変わるということは、個人がそれに付与している性質が変わることである。
(3D)二種の愛
愛には二種ある。目に見える直接的な愛と目に見えない愛である。
幼い者は目に見える愛だけが愛だと信じ、目に見えない愛は存在しないに等しい。
目に見えない愛が十分に分かるようになると、その人の愛情飢餓感が薄れる。
(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)