1月6日:書架より~『ストレスウオッチング』

1月6日(金):書架より~『ストレスウォッチング』

 

 平井富雄先生の本だ。一時期、平井先生の本にハマったことがある。何冊か所有しているのだけれど、本書はどういうわけか未読のまま放置されていた。どうもタイトルが敬遠したくなっていたようだ。

 当時はカウンセリングの勉強はしていたものの、現実にクライアントと会うことはなかった。そういう状況で平井先生の本は僕の飢えを満たしてくれるものだった。というのは、平井先生の本は実例が豊富に掲載されているのである。本書もそうである。実例を読みながら、今後、僕はどういう人たちと出会うだろうかなどと考えたりしたものだ。

 本書は昭和63年の出版とある。やはりその時代を反映した内容となっている。当時はOA機器の発達からテクノストレス症候群などが注目されていた時代だった。ストレスというコトバもかなり日常的に用いられるようになった時代だと思う。本書はそういう時代に迎合しているところが感じられて、それもまた未読の一因であったかもしれない。

 

 簡単に内容を触れておこう。

 第1章は「ストレスとは何か」と題して、ストレス学説の紹介から始まり、心身相関の話へ、そして各種の神経症へと論述が進む。特に、心気症、心身症、自律神経失調症などに焦点が当てられている。ストレスに関しては、ストレスとは不安であるとしているところに特徴がある。フラストレーションなどは取り上げられていない。

 第2章は「現代とストレス」である。テクノストレスの増加と現代人のストレス耐性の低下ということが取り上げられている。効率重視の結果、能率低下を招いているという指摘に僕は賛同する。また、運動機能と精神機能とは区別できないこと、それらの低下は疲労感として現れるというのも納得できることである。

 第3章は「ストレスの自己チェック」となっていて、各種のストレスチェックリストが収録されている。ストレスは「やる気」の根源でもあるので、すべてのストレスが悪いわけではない。だからストレス解消にこだわりすぎてもいけない。悪いストレスを解消するためには、ストレスの自覚が要される。その手がかりとしてのストレスチェックリスト。

 第4章は「ストレスのセルフコントロール」と題されており、お喋りすること、愚痴をこぼすこと、弱音を吐くことなどの日常的なストレス解消から始まる。加えて、自己催眠や自律訓練法、呼吸法なども紹介。

 自律訓練法に関しては、他者依存を断ち切ること、向上欲求と過剰期待に注意すること、くつろいでいる時に暗示をかけること、欠点の肯定と満足の否定などの指摘がなされているが、僕もそれらに同意する。また、温感と重感だけを重視しているところも僕は同意できる。自立訓練は最後までマスターするのがけっこう難しいと僕は思っているからで、なんとなく後ろ盾を得たような気分になる。

 第5章は、本書の最終章であるが、「ストレス耐性パワーアップ法」と題されている。ストレス耐性を高めようという章である。まずは各性格タイプを取り上げ、陥りやすいストレスや症状などを概観する。その後、さまざまな耐性アップ法を取り上げるのだけれど、禅僧の引用など、いささか宗教的な内容が盛り込まれる。

 

 以上が本書の大雑把な内容である。一般の読者向けに書かれた本なので読みやすく、内容も分かりやすい。そして、多くの症例が掲載されているのが今の僕にとっても嬉しい。1980年代の人たちが経験していることと、2020年代の僕たちが経験していることには、本質的な部分では差がないと僕は思っている。ただ、環境や症状の現れ方などが変わっているだけで、人間の経験するところのもの、並びに、人間に見られる現象そのものは変化はないのである。1980年代に苦悩した人たちの苦悩からも僕たちは学びを得ることができるのである。

 内容は一般向けに書かれているものだけあって、専門的な勉強をした人には物足りないところもあるだろうと思う。僕も正直に言って、目新しいものと遭遇しなかったというのが読後の感想である。ただ、読みやすいので、面白く読むことができたということも否定しない。普通に読んで面白い本である。

 

 さて、本書とも僕はお別れをするつもりだ。別れる前に通読して、本書と出会えたことに感謝する次第である。

 

<テキスト>

『ストレスウォッチング』平井富雄 著 ダルマブックス

 

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

 

 

 

 

関連記事

PAGE TOP