5月8日(火):<書架より>『パラケルススの生涯』(カイザー)
パラケルススの生涯を綴った一冊。パラケルススには多くの顔があるが、本書では医師としてのパラケルススを中心に据えて構成されている。
パラケルススの幼年時代は、不明なところが多く、よく分かっていないらしい。父親との関係は良好で、この父親から自然科学を吸収していった。後に医学を目指すも、大学を遍歴し、放浪の旅に出てしまう。この放浪で彼がしたことは、民間療法を学ぶことだった。大学などのアカデミーで教えられる医学に彼は徹底的に反攻していた。後に医師として地位を獲得するも、革新的な医学理論、医学改革に乗り出すパラケルススは、学会の脅威となる。彼らはパラケルススの地位を剥奪し、彼は二度目の放浪に出て、生涯を終えることになった。
パラケルススの医学理論は、まず人間を小宇宙(ミクロコスモス)と見立て、宇宙とつながりのある存在とみなすところに基礎を置いている。人間の行動も病気も大宇宙の法則に従っているものとみなし、治療は自然に基づくものでなければならないということであるようだ。現代で言うところの自然療法に近い考え方になるのだろうけど、それを16世紀にすでに言っていたところがすごいと思う。科学が推進される時代に、その時代に逆行するかのような思想を展開していたのだと思う。
医学も進歩しているので、現代の観点からすれば、パラケルススの治療論や診断論、病因論には古色蒼然な箇所もあるが、その根底にある医学哲学はけっこう鋭いところを突いているところもあった。膨大な著作から随所に引用がなされているけど、それを読むとかなり先進的な思想を持っていた人であったような印象を僕は受けた。
さて、パラケルススと言えば、錬金術をイメージしてしまう僕にとって、そこにあまり触れられていない本書はちょっと物足りない感じがした。パラケルススにとって、自然から生み出される錬金術も医学も同じ範疇の学問なのだろう。僕はそう思うので、片方だけを取り上げるのは、僕の中では、どうも不完全という印象を免れない。
そうした不満もありつつも、医師としてのパラケルススを知ることができたのは良かったかもしれない。パラケルススのこちらの顔をあまり知っていなかったことに気づくことができた。それに関しては有益な読書体験だった。
僕の唯我独断的読書評は3つ星半といったところ。
テキスト
『パラケルススの生涯』(Paracelsus)エルンスト・カイザー著(1969)・小原正明訳 東京図書
(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)