9月10日:ツイてない

9月10日(火):ツイてない

 

 今日は定休日だ。特にこれといった予定はない。一日、ダラダラと過ごしてみようなどと考える。

 しかし、意識的にダラダラするのは、却って難しい。やはり忙しない時にダラダラするのが一番いい。なんだか特権を与えられた気になる。まあ、そんなことはどうでもいいか。

 結局、ダラダラもできないので、とりあえず、一冊の本を連れにして、外出することにした。

 当てもなく近所を散歩する。駅に出たので、そのまま電車に乗る。なにしろ暑い。車内でこのまま涼んでいようかなどと考えたりするものの、終点である河原町駅に到着したので、一応下車し、外界へ出る。

 京都の繁華街だ。さまざまな業種の、たくさんのお店が並んでいる。それなのに僕の行く店と言えば決まっている。古書店だ。今日は3軒回った。

 1軒目でついつい本を買ってしまう。いつも本を買うのは控えないといけないなどと思っているのに、それにもかかわらず、安い本を購入してしまう。一冊100円のものを7冊買う。700円の出費だ。

 2件目の古書店は、久しぶりに足を踏み入れる。ここはあまり僕好みの本が置いてない店なんだけれど、たまに掘り出し物がある。入ってみると、アカン、すごく欲しい本が見つかった。値段を見る。5000円とある。ダメだ、今の僕にはとても手が出せない。ということで、断念する。次回に見送ることにする。

 絶版になっている本は値が上がる。おまけにその出版社がすでになくなっていたりすると、尚のこと値が上がる。それに加えてそれが初版本なんかだとさらに値が上がる。さらにその本の状態が良いと、つまり破損とかページに傍線や書き込みとかがなかったりすると、やや値が上がる。僕が欲しいと思ったその本、そのすべてが重なったようだ。

 ああ、チクショー、金があったらなあ、などとブツブツ呟きながら(もちろん心の中でだ)、その店を出る。そのくせ、足は3軒目に向いている。

 3軒目の店は臨時休業していた。今から思うと、この辺で「今日はツイてない」ってことに気づいておけばよかった。

 古書巡りはここまでにする。とは言え、次にブックオフに行く。河原町OPAだ。最初はタワーレコードに入ったのだ。CDを見ようと思って。ここも久しぶりに来る。以前とは店内の配置が変わっていて、探しにくい。それに、CDの品ぞろえが以前よりも悪くなっているような感じがする。

 何も買わずに、と言うか、何も欲しいと思うものがないので、店を出る。ワンフロア―下のブックオフに入る。中古の安いCDを二枚買う。1000円の出費だ。

 その後、行く当てもなく放浪する。買い物は終わりだ、それだけは決めた。お茶でもしようと思い、昔、よく行っていたジャズ喫茶に入る。入店した途端、マイルスが聞こえてくる。なかなかいいぞと思い、席に着く。

 そこで買ってきた本を紐解きながら、ジャズに聞き入る。ああ、少し気持ちが落ち着いてきた。

 次に店員さんがビル・エヴァンスをかける。トリオで、ライブ盤のようだ。そのチョイスはいいんだけれど、なぜかボリュームを下げる。おいおい、何すんねんと思った。多分だけれど、音量に関して条例が厳しいとか、そういう背景があるように思う。昔のように、店の外にまで音が聞こえるような音量は禁じられているのかもしれない。昔とは違うのだなとしみじみ思う。

 結局、音楽がはっきり聞こえないので、興ざめした僕は、そのジャズ喫茶を後にする。

 困った。もう行くところがない。腹も減っている(昼食がまだである)けれど、何か食べようという気持ちにもならない。おまけに雨が降りそうだ。いや、現に降り始めている。

 駅に向かい、高槻に出ることにする。職場に用事があるわけではないんだけれど、雨が降るのなら高槻まで行った方がよさそうに思った。

 高槻に着く。CDを買ったことを思い出す。早速聴いてみようと思いきや、ケースを開けてビックリだ。中身のCDが違うではないか。ジャケットと中身が違うわけだ。やられた。

 このCDをどうしようか。今から河原町に戻って返品しても、交通費の方が高くつく。それにそんな労力を使うのもウンザリする。やり場のない怒りをこめて、そのCDをゴミ箱に放り込む。

 とかく、今日はツイてないことが多かった。

 

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

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