7月23日(火):吉本興業社長の会見を見て
今日、火曜日は定休日だ。今日は休む。
午前中、いくつかの用事があって外出する。午後、一旦帰宅するが、その後、京都は大雨が降り、以後の外出を断念。
テレビなんかを見て過ごすが、ワイドショーと言えば、京アニ放火事件か吉本興行のことかで独占されている感じだ。
吉本の件と言えば、発端は反社会グループへの闇営業だった。宮迫・田村両氏が会見を開いた。個人的にはこの会見の意味がよくわかっていない。謝罪なのか、吉本の内部告発なのか、あるいは引退会見なのか、どうも会見の目的というか性質が不明瞭な感じがしている。もっとも、この会見を最初から最後まで見ていないので、せいぜい特定の場面をいくつか見た程度なので、どうとも判断できないのであるが。
この芸人の会見に引き続いて、先日、吉本の岡本社長が会見を開いた。こちらは5時間にも及ぶというのだから、とても全部は見ることができない。テレビでも部分的に取り上げられているので、全体の文脈から評価しない限り、社長のそれぞれの言葉の意味を迂闊に判断するわけにもいかない。
年末の笑ってはいけないでお馴染みの藤原さんが副社長だったのは初めて知った。
まあ、今のは余談だけれど、5時間も会見をすれば、その間に意味のアイマイな言葉やいささか不評を買うような発言が出てしまうのも仕方がないとも思う。これをすべて社長の人格に帰属させることは慎む必要もあるかと思う。
芸人さんたちと社長さんたち、両者の言い分のうち、僕は個人的には社長の言い分の方を評価している。芸人と社長とでは立場が違うので、当然、見えていることも考えていることも異なるものである。記者会見の意味も自ずと両者で相違が生じるだろうと思う。
これまた個人的見解だけど、闇営業するということ、つまり事務所を通さずに仕事を取ってくるというのは個人プレーである。今回の芸人の会見もやはり個人プレーという感じがしないでもない。
しかも闇営業先が反社会的なグループであるという点が問題だ。これが一般企業とか個人レベルのものであれば問題もなかっただろうに。芸人さんたちも、ある意味では、詐欺グループの詐欺に遭ったようなものかもしれない。
さて、社長の方は、会見を開いた芸人さんたちよりも守らなければならないものが多いと思う。会社は6000人の芸人を抱えているそうだ。その他の従業員なんかも含めるとさらにその人数は増えることだろう。社長はその人たちを守ろうとしているようだ。僕はそういう印象を受けた。そして、それは社長の立場であれば当然のことでもあると思う。芸人さんたちは、あるいは一般の視聴者もそうかもしれないけど、この立場の相違を無視しているかもしれない。
さて、岡本社長の会見模様から、僕はある哲学上の問題、倫理学上の問題を思い浮かべた。それは「100人を救うために1人を犠牲にすることは許されるか」という問題である。
何が「善」であるかは、人によって考え方が異なるだろう。基本的に「最大多数の生存」という法則が善である。しかし、1人の命を犠牲にして100人の命を救うことが「最大多数の生存」の法則に則っているかを評価することは難しい。少なくとも次の二つの考え方が可能であろう。
A・1人の犠牲のおかげで100人が助かった。これを「最大多数の生存」を満たしていると考える人もあるだろう。
B・その1人でさえも犠牲にせず、その分、他の100人がそれぞれ負担を分け合えば、101人が助かる。これこそ「最大多数の生存」を満たしていると考えることもできるだろう。
僕の受けている印象では、岡本社長は、最初Bの立場で考えていたのではないかと思う。それに対して芸人さんたちが反抗したので、Aの立場に切り替えたのかもしれない。この切り替えが周囲には非情なものとして映っているのかもしれない。
まあ、いずれにしても、芸人さんたちもいささか自分勝手なところがあったように僕には思われている。反社会的グループと関りを持ってしまうこと、これは芸能人にとっては致命的なゴシップになるだろう。事務所から即刻解雇されてもおかしくない出来事ではないかと思う。社長は最初に謹慎処分を言い渡している。そして、穏便に済まそうとしたところがある。それを芸人が「気に入らない」と文句を言いだしたのだ。本当にそんなことを言える身分なんだろうか、と僕だったら思う。
僕がそんなことを言っても始まらない。こんなの、言ってしまえば、すべて他人のことだ。僕は僕のことに専念していこう。
ちなみに、上述の「100人を救うために1人を犠牲にしてもよいか」といった問題は、加藤尚武先生の『現代倫理学入門』(講談社学術文庫)に詳しい。興味のある人は一読されるといいでしょう。
さらにちなみに、加藤尚武先生の応用倫理学は、世の中の仕組みのウラで働いている哲学や倫理を理解させてくれる。なんか、世の中のことがすごく分かったような気(錯覚)を与えてくれるので、僕のような世間知らずには最良のテキストだった。一度も面識はない先生なんだけれど、僕にとっては尊敬する先生の一人であり、その著書を通してたいへんお世話になった先生でもある。
芸人さんのファンが減るのは構わないけど、加藤先生のファンはもっと増えてほしい。そんなことを思いつつ、今日は筆を置こう。
(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)