6月5日:唯我独断的読書評~『悪徳の報酬』

6月5日(水):唯我独断的読書評~『悪徳の報酬』(ローラ・バーフォード)

 

 海外文学を読み漁ってた頃に古書店の叩き売りで購入した本だ。買ったのはいいけど、長らく手を付ける気にならなかった。もう処分してもいいかなと思い始めていたところ、せっかく買ったのだから捨てる前に一読だけでもしておこうと思い立ち、読んだ次第である。そして、読んでみると、そんなに悪い内容ではないと思った。

 物語の舞台はイギリス(一部フランス)で、時代は18世紀である。正確な年代は不明だけれど、文中、パリの騒ぎが鎮まりつつある時期とあるので、多分、フランス革命の終盤の時期なのだろう。

 

 物語の概略を記録しておこう。

 発端はゴア―侯爵をはじめ、4人の貴族たちの退屈しのぎのゲームにある。貴婦人を犯し、それに成功するかしないかの賭けをする。

 ゴア―侯爵がその挑戦に応じ、22歳のクレシ―嬢をかどわかし、その操を奪う。ゴア―はゲームの賭けに勝ったことになる。

 4人のうちの一人テヴィオット子爵は、密かにクレシ―に思いを寄せていたためにゴア―のその行為を許せず、ゴア―とクレシ―との間に起きた出来事を、クレシ―の父親に密告する。

 クレシ―の父、並びに彼女の兄たちは、宴席上でゴア―を呼び出し、監禁する。クレシ―を穢した責任として、彼女との結婚をゴア―は強いられる。

 不承不承の結婚であったが、ゴア―とクレシ―の結婚生活は、初めのうちこそ円満であった。やがて、ゴア―の放蕩癖が現れ、彼はクレシ―との生活を疎かにしていく。

 ゴア―が許せないのは、あの密告者であった。テヴィオット子爵を犯人と見込み、決闘を強いる。この決闘でテヴィオット子爵は負傷する。

 テヴィオット子爵は、クレシ―たちの親戚に当たり、そのため彼女の父親は再びゴア―を拉致する。すでに身ごもっているクレシ―を残して、ゴア―は連れ去られ、パリの牢獄に投獄される。

 8か月の獄中生活の後、出所したゴア―。持つものもなく、帰る気力もない。彼はさほど裕福ではないが、つましく生活している農家に住み込みで働くことになる。1年数か月そこで働くうちに、ゴア―はイギリスへ、妻の元へ帰りたく思い、彼女に手紙を出す。

 手紙を受け取ったクレシ―が迎えに行き、ゴア―を連れ戻す。すでに彼らの子供は生まれていた。帰郷したゴア―に対して、クレシ―の父親たちも、もはや何も言えなかった。ゴア―が以前とは違っていたからである。

 ゴア―とクレシ―との間にあったわだかまりも解消して、物語は終了する。

 

 ざっと、そんな筋である。男は争いの火種を撒き、女が平和と和解をもたらすというのは、古典的なドラマの定番である。その定番を踏んでいるので、安心して読める。

 主人公のゴア―という人物であるが、自分勝手で、賭けの挑戦に応じたというだけでクレシ―を襲い、その責任も本当は取りたくないと思っているような男である。はっきり言って、卑劣漢であり、最初は嫌悪感すら催した。でも、投獄されて、農家で額に汗して働く姿を見ると、もはやそんな印象もどこへやらである。いつしか、ゴア―に感情移入している自分を発見した。

 本作は、ゴア―の、言うならば、改宗の物語であり、彼の生まれ変わりの物語である。また、苦しみの克服の物語であり、関係の修復の物語でもある。

 

 さて、唯我独断的読書評として、4つ星を進呈しよう。まったく期待せずに、期待値ゼロの状態で読み始めただけに、幾分、評価が高くなってしまったかもしれないが、それでも内容は悪くない。

 すべてが丸く収まる大団円も、いささか出来過ぎの観もあるけど、それも一向に気にならないほど爽快である。

 

<テキスト>

『悪徳の報酬』(Vice Avenged,1971)-ローラ・バーフォード著

 中田耕治訳 立風書房 

 

 

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)

 

 

 

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