3月15日(木):酒呑み夫婦のケンカ
今日は午後から外出する予定を立てていた。だから午後からは不在にしていた。仕事も入れないようにしていた。そして、外出して4か所ほど回る予定を立てていた。一応、予定はこなした。その帰り道のカフェでこれを書いている。
途中、コンビニでコピーをとったのだけど、そこで面白い光景を目にした。それは年輩の夫婦であった。夫の方は表でパック酒を呑んでいる。夫が「爪楊枝買って来い」と命令する。命令された妻は店員に尋ねる。店員さんは機転を利かせて、売り物の商品ではなく、店で使う楊枝を一本渡したのだった。妻はそれを持って外に出て、夫に手渡す。夫は「金を払って来い」と更に命令する。僕は表でタバコを喫いながら、その光景を見ていた。こういう時、タバコというのは便利である。何気なくタバコを喫いながら一部始終を観察できるからである。
しかし、楊枝一本なんて値がつくのだろうか。店員さんは親切で一本分けてくれたわけである。夫はその好意に甘えたらいいのだが、何が何でも金を払ってこいという勢いである。困惑するのは妻である。そして「金を払って来い」「くれはったんや」の応戦となる。だんだん雲行きが怪しくなる。案の定最後はケンカである。妻は「そんなに言うのやったらアンタが払ってきたらいいやん」に、夫は「何でオレがそんなんせなアカンねん。お前に頼んだんやないか」の応酬である。爪楊枝一本で夫婦ケンカである。アホみたいな話に聞こえるかもしれないが、アル中の人間関係とはこのようなものなのである。何でもないような小さなことが、ケンカの火付け役になるのである。そして、こういう時のケンカは激化するのが常である。挙句の果てに、双方はなんでこんなケンカしているのか分からないということになるのだ。
酒飲み時代に、僕はこんなしょうもないケンカをいくつも見てきたので、よく分かるのである。きっかけは何でもないようなしょうもないことである。でも、酒の勢いがあるためか、双方とも引くに引けなくなり、上記のような応戦をやりあうようになる。なんでこんなことで言い合いをしているのか、当事者たちも心のどこかではその無為さを感じているのだけれど、お互いに止めようがないのである。そして、双方ともバカバカしい感じと、不快感だけを残す結果となるようである。
この夫のことをもう少し推測してみよう。夫は何に対して怒っていたのだろうか。彼は妻に「楊枝を買って来い」と命令したのである。店員さんから貰ったということは、妻が彼の命令に背いたように見えていたのかもしれない。そこが彼の思い通りにならなかった部分である。妻が自分の思い通りに動かなかったことが腹立たしいのだろう。だから「買って来いと言ったからには、何が何でも金を払って来い」という理屈になるのだろう。いい迷惑なのは妻の方であるが、初めの内は妻も何とかして夫の意向に沿おうとしている。し過ぎるくらいにしているのである。そして最後はケンカになる。このケンカはそれまでのいきさつや自分の感情をウヤムヤにできるという利点がある。この夫婦はこういうケンカをこれまで幾度繰り返したことだろうと僕は思う。お互いに決して幸せではなかっただろうと思う。
夜になって、飲酒欲求は高まっていたが、この夫婦を見て、やはり酒は呑むものではないなと改めて体験したのだ。この光景が皮肉にも、僕にとっては役に立ったのである。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)