<テーマ20>「うつ」について

 

 いつでしたか、「うつ病」による休職や自殺によってもたらされる経済的損失が三兆円ちかくに上がるというのを新聞で読んだことがあります。この数字がどのくらいのものなのか、私は経済に疎いので見当もつかないのですが、加えて、こうした計算に意味があるのかどうかも分からないのでありますが、とにかく、現在の日本において、「うつ病」は国が無視することができない「病気」となっていることは確かなのであります。
 年間にしてそれだけの経済的損失があるから「うつ病」に取り組まなければらない、国はそれでいいかもしれませんが、私はそのような視点を持っておりません。それが経済的な損失につながるか否かに関係なく、それがその人の生き方 に影響を及ぼしているからこそ、それに取り組む必要があるのであります。

 一方、とある書店に行きますと、「うつ病」のコーナーがあったりします。とても多くの関連書が並んでいるのを見まして、社会的な関心の高さというものがこういうところにも表れているなと思ったのを覚えております。
 「うつ病」に関する本はたくさん出版されていて、実に様々な立場の人がいろんなことを書いているのであります。専門的な本から、いわゆる「心理読物」などと分類される類の本、さらには「うつ病」はこうして治す式のハウ・トゥー本まで様々であります。そういう状況ですから、今さら私がこういう場で何か述べる必要があるのかとさえ思うのであります。それでも私なりに考えたことや体験したことなどを綴っていくつもりでおります。

 私は「うつ病」という言葉をかなり限定して用いるようにしています。個人的には「うつ病」「うつ症状」「うつ状態」という三つに分けて見るようにしているのですが、実際にはこうした区別をされることなく「うつ病」と診断されてしまう人たちが多いようであります。
 「うつ病」というのは、私は純粋なものに限定しており、精神医学でいうところの「内因性」の「うつ病」を指すものであります。
 「うつ状態」というのは「心因性」の「うつ病」に該当するものですが、様々な「反応性のうつ病」も「うつ状態」の範疇で私は捉えています。
 「うつ症状」というのは、あまり明確に規定することは困難なのですが、「うつ」が副次的な「症状」としてみられるものを意味します。つまり、その人の抱えている問題、主な問題はもっと別の「診断名」が付けられるべきであるのに、それに伴って「うつ」が見られているという場合、それは「うつ症状」を伴っていると見るわけであります。実際、「統合失調症」にも「強迫性障害」にも「境界性人格障害」にも「うつ」は生じるのでありますが、その場合、「うつ」は副次的な症状とみなすことができますので、「うつ病」とは区別して、それらは「うつ症状」として捉えるように私はしております。
 この三つ、「うつ病」「うつ状態」「うつ症状」には、それぞれの違いもあり、こちらの接し方や対応の仕方も異なってくるものであります。それを「うつ病」という一語で括ってしまうことは無理があると私は思うわけであります。

  先ほど書店の話をしましたが、「『うつ病』はこうして治す」式の本、いわゆるハウ・トゥー本に書かれていることは、実際には「うつ病」にはあまり当てはまらないのではないかという印象を受けております。そうした類の本に書かれていることは、むしろ「うつ状態」の人に対してはよく該当しているだろうと思います。

 そうした本の著者が間違っていると私は主張しているのではありません。「うつ病」という言葉の使用に関して問題意識を覚えているのであります。私が一番危惧しているのは、そうした本から「『うつ病』というのは簡単に治るものだ」という認識をしてしまうことであります。私の多少の経験では、「うつ病」というのはそんなに簡単に扱える「病気」ではないし、一筋縄ではいかないものであります。

 さて、今後、私はこのページには 「うつ」のことを述べていくつもりでおります。「うつ病」とはどういう「病気」で、一体その人の何が損なわれていくかということを論じるつもりでおります。また、「うつ病」と「うつ状態」では何が異なっているのかということも述べたいと思います。
 「うつ前駆症状」についても書きたいと思っております。最初に述べたように「うつ病」は国が取り組み始めた国民病といった観を呈しているのですが、本当に取り組まなければならないのは「うつ病」よりも「うつ前駆症状」の方であるということを述べる予定をしております。
 さらに、「うつ病」「うつ状態」の人にとっての気分や感情ということ、それらが回復されていくということも述べるつもりでおります。また、その人たちがどのような世界に生きているのかということも伝えることができればと思っております。
  また、「うつ病」には自殺の問題が常に伴っているのであります。自殺関しては「自傷と自殺」ページの項目を読んでいただければと思います。しかし、「うつ病」の人にとって、自殺とはどのような意味合いがあるのか、それによってその人は何を達成しようとしているのかといった問題を取り上げることができればと思います。
 さらに、あまり問われることがないのですが、「うつ病」の人に子供がいる場合、どういう子育てをするか、子供にどういうことをしてしまうかということも、私なりの見解を述べるつもりでおります。
  性格のことも述べなければなりません。「うつ病」には「うつ病」に罹りやすい性格があると言われています。それは「メランコリー親和型性格」とか「執着性格」として概念化されております。そのような性格がどういうもので、どういった経緯で形成されていくかということを述べることができればと思います。また、現代の日本社会においては、適応するためにはそのような性格を発達させる必要もありまして、つまり社会に適応していくためにはそれは望ましい性格であると同時に「うつ病」の危険性もあるということであり、このジレンマを私たちはどのようにして克服すればいいのだろうかということも考えてみたいところであります。
 怒りや敵意も取り上げなくてはなりません。「うつ病」「うつ状態」にはそのような感情の問題を常に孕んでいるものであります。

 「うつ」に関しては様々なテーマがそこに含まれているものでありまして、私にどれだけのことが語れるか自分でも分からないし、不安でさえあります。しかし、このテーマに関して、興味、感心を持たれている方々、実際に「うつ」を体験されている方々に対して、何らかの一助となれれば幸いに思うのであります。

(文責:寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー

 

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