12月21日:ミステリバカにクスリなし~『マッキントッシュの男』

12月21日(火):ミステリバカにクスリなし~『マッキントッシュの男』(デズモンド・バグリイ)

 

 20代前半頃、僕は本作を映画で観た。ポール・ニューマン主演の映画だ。ただ、どういうわけか印象に残らず、どういう話であったかも記憶に残っていない。後年、原作本を買う機会があった。読もうと思う気持ちもあれば、映画で観たしなあという気持ちもあり、ついに読まず終いのまま現在に至ってしまった。先日、実家の書架を整理して本書を発見するまで、本書のことはスッカリ忘れていた。本は読まれるためにある。未読の本は読んでおこうということで、今回読むことになった。

 

 物語の前半を簡単に述べておこう。

 主人公リアデンは、イギリスに入ってくるダイヤモンド強奪作戦のためにマッキントッシュに雇われる。計画もお膳立てもマッキントッシュがすべておこない、リアデンは実行するだけである。

 配達員をぶん殴ってダイヤモンドを奪い、逃走中にマッキントッシュに手渡す。計画成功である。

 その日のうちに警察が来て、リアデンは暴行と窃盗の罪で逮捕される。彼は裁判にかけられ、刑が確定する。刑務所送りとなるリアデン。

 刑務所での生活。やがて彼はスカーペラーズという脱獄集団の話を耳にする。そんな矢先、ロシアの大物スパイであるスレイドが入所する。スレイドはリアデンよりも先にこの刑務所に入っているはずだったのだが、病院で治療を受けていたためにリアデンよりも後に入所となったのだ。

 やがてスカーペラーズの連絡員がリアデンに接触してきて、スレイドを一緒に脱獄させる計画に彼は乗る。

 脱獄当日。刑務所内で騒動を起こし、混乱する最中、作業車を使って二人を塀の外に連れ出し、巧みに逃走する。リアデンは逃走中に眠らされる。

 目が覚めた時、リアデンはどこかの屋敷の一室にいることを知る。スレイドも一緒だ。彼は至れり尽くせりの歓待を受けるものの、ここがどこであるかなど一切の手がかりがない。やがて、スレイドだけどこかへ連れ出されていき、リアデンだけが残されることとなる。

 

 さて、何の予備知識もなく本書を読むと、一体この物語はどこへ辿り着くのかまったく見えない感じがするのだが、ここで種明かしがされる。リアデンが南アフリカにいた頃、すでに彼はマッキントッシュに雇われていたのだ。リアデンの任務は、スカーペラーズの壊滅とスレイドを連れ戻すこと乃至は殺すことであった。ここまでのストーリーの流れはすべてマッキントッシュの筋書きによるものであったのだ。

 しかし、スレイドが連れ出されてリアデンが一人残されたということは、この筋書きが狂い始めたということを意味する。なかなかニクイ演出である。筋書きが狂い始めたところで、実は今までのはこういう筋書きだったのですよと提示するわけで、それによって筋書きが狂ったということが強調されるように感じられるのだ。

 

 さて、ここまではすべてマッキントッシュの筋書き通りに事が運んでいたのだ。その筋書き通りに主人公も行動していたのだ。正直に言うと、だから今一つ面白くないのである。主人公に魅力があまり感じられないのである。

 しかし、マッキントッシュの筋書きが狂ってしまって、ここから俄然、主人公が活き活きしてくる。アクティブに活躍し始めるのである。

 彼は屋敷から脱走する。自分のいるところがアイルランドであることを知り、マッキントッシュの秘書であるアリスンと合流して調査を始める。マッキントッシュも命を狙われたという。やがて彼らの捜査線上にウィーラー議員の名前が浮上してくる。

 

 以後、ウィーラーの所有する大型船アーティナ号を追って、アイルランドから地中海はマルタ島までリアデンらは飛び回る。彼らはアーティナ号を港に足止めし、船に潜入するも失敗し、翌日、衝角つき花火満載ボートを拵えてアーティナ号に突っ込む。趣向を凝らした場面がテンポよく展開されていくところは小気味いい感じで爽快である。

 

 本書は、あまり期待しないで読み始めたせいもあるかもしれないけれど、読み始めるとともかく面白かった。前半は今一つの印象が濃かったものの、後半の畳みかけるような目まぐるしい展開は一気に読ませる。僕の唯我独断的読書評は4つ星半だ。

 

<テキスト>

『マッキントッシュの男』(The Freedom Trap)デズモンド・バグリイ

 矢野徹 訳  ハヤカワ文庫

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関連記事

PAGE TOP