12月15日:僕を変えた女性

12月15日(木)僕を変えた女性

 

 昨日、女性からいろいろ教えられることや、女性が僕を変えてくれるということを少し述べた。今日は、僕を変えた一女性の話をしようと思う。それは僕が小学生の頃のことだ。

 僕の通っていた小学校は、雨の日に限り、マンガ本を一冊学校に持って来てもいいというルールがあった。雨のために外で遊べないからである。それで、ある雨の日に、僕は教室で独り、持参してきたマンガ本を読んでいた。どういういきさつがあったのかはもう覚えていないのだけど、僕の好きだった女の子が横に座って、一緒に僕のマンガ本を読み始めたのである。僕たちは肩を並べて、一冊の本を読んでいるのである。彼女とすごく距離が近くて、密着感を感じた僕は、とにかく非常にドキドキしたのを覚えている。本は僕が手に持っている。彼女の様子を見ながら、僕はページをめくる。彼女の息遣いまで伝わってくるようだった。すごい興奮と緊張で、傍からみると、僕は茹でタコのように真っ赤だったんじゃないかと思う。

 その時初めて、僕は本を読むということが、こんなに楽しくて、尚且つ、胸が躍るような体験であることを知ったのである。その後、小学校の高学年になると、僕は図書室に足を運ぶことが増えていった。それ以前よりも、本をもっと読むようになったのである。

 今、僕の職場には本が並んでいる。これを見た人は「すごい読書家なんですね」とか「勉強家ですね」などと言ってくれる。敢えて、彼らの言葉を否定したりはしないのだけど、本当はどちらも間違いなのである。僕は読書家でも勉強家でもないのだ。ただ、本を読むことが愉しいということを今でも体験しているだけであり、これを教えてくれたのが、他でもない、小学校時代の彼女だったわけである。彼女が教えてくれたことを、僕は今でもしているだけなのである。

 ちなみに、彼女と肩を寄せ合って読んだ漫画とは、石森章太郎(僕はどうしても石ノ森に馴染めない)さんの「アンドロイドV」という作品だった。その後、マンガを全部処分してしまったのだが、この作品だけは捨てたことを後悔した。内容自体は、文庫版や新装版などで読むことはできるのだが、当時所有していた単行本で、僕はもう一度読みたいと思っていた。十数年前に、古本屋で発見した時は迷わず購入した。それは今でも大切にしている。読んでいると、教官(作品の中に登場する)のこのセリフの所で、彼女がこんなことを言ったなとか、そういうことを思い出すのである。あの時のことはしっかりと僕の中に刻み付けられており、今でも生きているのだ。

小学校時代の、ある雨の日の休み時間に起きたちょっとした出来事だったけれど、今から思うと、あの時、僕の生き方が変わることになったのだ。あの瞬間がなかったら、僕は今頃何をしていただろうと思う。

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー

 

 

 

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