10月26日(水):断酒の記録(2)
僕は夜の八時までは仕事をするけれど、それ以降は一切仕事から離れるという生活を送っていた。それ以後も仕事をすることはたまにはあったけれど、基本的には、夜八時以降は僕の酒飲み時間なのだった。夜の八時から終電の十二時までが、僕の「解放時間」だった。
酒を止めて一番悩んだことが、今までお酒を飲んでいた時間帯をどのように過ごすかということだった。断酒すると、この時間が空白になってしまうのである。
最初の頃、僕は僕の女性友達に深く感謝するのであるが、この時間はなるべく彼女と過ごそうと決めていた。独りになることは、飲酒の誘惑に負けてしまいそうだったからだ。今回の断酒においては、彼女の存在がとても大きいのである。彼女がいなければ一か月くらいで断酒は終わっていたかもしれないのである。この意味でも、彼女は僕の人生を変えた人なのだ。
さて、酒を止めると、どういうところが変わってきたかを述べよう。まず、お金を使わないということが挙げられる。例えば財布に一万円入っているとする。以前なら一週間くらいでそれがなくなっていたのに、それが半月近く残るのである。それもそのはずで、交通費は別に計算しているので除くことになるが、僕が一日で使うのは、タバコとコーヒー代で、それで一日八百円程度のものである。
また、毎年夏になるとひどい汗疹ができるのであるが、今年はそれがほとんどなかった。酒を飲んでいると、とにかく汗をかくものである。酒を飲まなくなったので、汗の量が減ったのだろう。
肝臓がしんどいという感じもしなくなったし、胃薬や二日酔いの薬とも縁がなくなった。〆のラーメンなどという習慣もなくなり、一日二食から三食で十分になった。ただ、以前よりも便秘するようになったかもしれない。
痩せたことにより、今までの服がどれも緩々になってしまった。サイズが合わなくなってしまったのである。これは仕方がないことである。
痩せたと言っているが、僕の感覚では「薄く」なったと言う方が正しい。閉まりかけのドアにすっと身体を滑り込ませることに成功すると、本当に「薄く」なったと実感する。女性友達も、ある時、僕のお腹を触って「すごい! ぺったんこ!」と驚いたことがある。僕の場合、お酒を止めて、最初の二か月で出っ張っていたお腹が平たくなった。
痩せるといいこともあって、身体が軽いのである。歩くのが楽なのである。それに若く見えるようになった。僕は若い頃はプラス7歳で見られていた。18歳の時に25くらいですかと言われ、20歳の時には27歳くらいですかと言われ、25歳の時には32歳くらいですかと言われたのである。25歳時に言われたのが最後で、それから徐々に「実年齢」と「見た目年齢」との差が縮まっていったのである。僕の30歳前後の頃というのが、両者が非常によく一致していた時期である。その後、今度は逆に実年齢よりも若く見られるようになっていったのである。マイナス7歳くらいで言われることもある。そして、先日、初対面の人から「若いんですね。30歳くらいですか」と言われてしまったのである。マイナス9歳である。記録更新である。それはともかく、酒を止めて、身体が痩せて、「若返った」とはいろんな人から言われたことである。振り返ると、以前はそんなに老けていたのかなとも思う。
いずれにしても、酒を止めたら止めたでいいこともあるものである。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)
(付記)
ああ、これを読むと、断酒はいいものだったなと改めて思う。よし、もう一度やってみよう。もう一度若がえってやろう。もう一度、あの「朝勃ち」を再体験してみよう。読んでいると、そんな思いに駆られる。
(平成25年8月)