10月24日:断酒の記録(1)

10月24日(月)断酒の記録(1)

 

 昨晩から禁煙にチャレンジしている。これで何度目だろうか。いつも試みては挫折している。もちろん、失敗ばかりではなかった。禁煙して、どういう場面でどういう苦しみを経験するかということを知ることができたし、禁断症状で僕がどういうことを体験するかも知っている。過去の挫折経験から、そういう自分に対しての知識を積んでいるほど、今後の対策が立てやすいものである。

 また、何事も一回目で成功するとは期待していない。断酒の方は、今でこそ成功しているけれど、今回の試みは十数回目の断酒である。

 今回の断酒で心残りなのは、この10か月近くの間に経験したことを記録していなかったことである。僕の断酒記録が誰かの役に立ったかもしれないのにと思うと、非常に残念である。今回は、これまでの断酒を振り返ってみようと思う。

 酒を止めたのは1月10日からだった。お酒が欲しくなくなったのである。酒を止めると食べる量が減っていくので、体重も減少し、痩せていく。2月頃がとてもしんどかったのを覚えている。これは飲酒欲求に襲われる苦しさではなく、体重減少に伴う苦痛である。体重計に乗る度に体重が少しずつ減っており、頻繁に立ちくらみを経験した。

 お酒を飲むと、なんだかんだと食べるものである。そういうことがなくなってみると、今までどれほど食べていたかに思い至る。そして、普通に生活していたら、そんなに食べる必要もないのだということを僕は知った。

 3月に入っても、体重は減って行ったが、2月ほどの急激な減り方はしなくなっていった。それに伴って、徐々に体調も良くなっていき、立ちくらみも経験しなくなっていった。時折立ちくらみを経験することもあるが、そういう時は体重が減っている時だということが分かるようになった。食欲は少し増えていった。

 酒を止めると、その分、タバコとコーヒーの量が増えた。僕はそれらはそのままにしておいた。酒を止めるということは僕にとっては一大事業なわけであり、これを成功させるためには、その他の部分が少々悪くなっても構わないという気持ちがあった。だからタバコやコーヒーの量が増えても、酒だけは手を出さないということにしていたのである。

 3月か4月頃だっただろうか。ものすごく久しぶりに、僕は「朝勃ち」を経験したのである。これはたいへんびっくりしたことである。酒を飲んでいる頃にはあまり経験しないことだった。特に飲酒の翌日というのは、情けなくなるくらいアレがぐったりしているのである。僕のアレはもはや衰えきったものと見做していたのである。それが元気に「朝勃ち」しているのだから、僕の驚きはたいへんなものだった。明らかに、断酒によって、身体が変わってきたのだと思う。

 3月頃までは、飲酒欲求と戦うという感覚が強かったが、4月頃からあまり闘争的な感じではなくなった。これはつまり、酒のことで気持ちが乱されなくなったということであり、断酒が当たり前のような生活になっていったのである。この頃から、断酒はすごく楽になった。そして、僕の場合、夜は本を読むか、原稿を書くかして過ごすことが増えた。これは以前なら飲酒していた時間帯が有意義な活動で満たされ始めたということである。

 5月、6月頃というのは、たまに飲酒欲求に襲われるが、大抵は短時間でそれが治まるようになっていた。6月の時点で、体重は10キロ減り、ウエストも12センチほど細くなっていた。それ以後は横ばい状態が続いている。

 その頃の僕の心配は、酒なしで夏を乗り切れるかというものだった。暑い日にビールとか飲みたくなるものである。実際、以前の断酒で、夏場で挫折した経験がある。冷たいものが欲しくなるのである。だから僕の断酒にとって、夏が一番危険なのである。

 夏を乗り切るために、僕はビールの代わりに炭酸飲料をよく飲むようになった。仕事が終わって、帰りの電車に乗る前に、コーラなんかを一本空けるのである。必ずそれをするようにしていたのである。このコーラがいつか缶ビールに変わっていたりしないだろうかと心配しつつ、それでもコーラで凌げる間は続けようという思いだった。この毎日の炭酸飲料で太っても構わないと思っていた。

 しかし、夏を酒なしで乗り切ることは、それほど困難でもなかった。コーラがビールに変わることもなかったし、体重もそれほど増加しなかった。どうやら、以前の失敗体験から、僕が勝手に難易度を上げてしまっていたようである。10月に入ると、お酒の誘惑を感じることはほとんどなくなっていた。

 

(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー

 

(付記)

 こういう体験をしたんだなあと感慨深い。今は断酒の意味を失い、飲酒を再開している。体重も体型もすっかり元通りになってしまった。また、断酒をしてもいいなあとは思うのだけれど、どうしても酒が欲しいという時もあり、なかなか断酒できないでいる。我ながら情けない話だ。

(平成25年8月)

 

 

 

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