10月7日(金):会社の辞め方(4)
これまでは基本的に退職して異業種に就くというケースを前提に述べてきた。では、同業種に転職する場合はどうかということを考える。これは例えば、ライバル会社から引き抜かれるというような例である。こういう話もけっこう多い。
どことも優秀な人材は確保したいと願うものである。もしライバル会社にそういう優秀な人材がいるとしたら、是非ともうちに来てくれないかと思うものである。そのとき、その人が勤めている会社よりもいい条件を提示するものである。
こういう状況に立たされた時、その人は葛藤するものである。今の会社には自分を育ててくれた恩義がある。しかし、引き抜きに来た会社は今以上にいい条件を出してくれている。この葛藤である。どちらを選択しようとその人の自由である。その人の価値観に従って選択すればよいものであると、僕は捉えている。
これはあくまでも僕の個人的な人生哲学であるが、「いい条件を提示されたら疑ってかかれ」と考えている。オイシイことばかりではないということを覚悟しなければならないと僕は考えている。
例えばA社に勤めている人が、ライバル会社のB社に引き抜かれたとする。B社は当然A社以上の条件と優遇をその人に約束する。僕がカウンセリングでよく聞かされるのは、そうしてB社に入ったけれど、B社ではまったく仕事にならないというものである。これはなぜかと言うと、その理由の一つは、その人以前にB社にいた人、初めからB社にいた人が、その人のことをこころよく思わないからである。そして、好条件につられてB社に入ったけれども、B社ではまったく孤立してしまって、周りのことが気になって仕事にならなかったりする。それに引き抜かれたということで変なプレッシャーを自分に感じている場合もある。A社にいた頃は、自分がB社に行っても、A社に居た時と同じように仕事ができるものだと信じていたのであるが、蓋を開けてみると、A社にいた頃のようには仕事ができていないということになるのである。B社の人たちも、その人のことを「期待外れだ」と感じるようになるかもしれない。そうなると、その人はますます追い込まれてしまい、そして、A社に居た頃は良かったと思うのである。できれば、もう一度A社に戻りたいとまで思うのである。しかし、その時には、戻ろうにも、もう遅すぎると感じているのである。
もちろん、このような例ばかりという訳ではない。B社から引き抜かれ、A社の同僚全員を敵に回してでも、B社にて業績を上げるような人もあるだろう。ただ、カウンセリングの場で時々このような話を聴くので、そのようなリスクも考慮に入れなければならないと僕は思うのである。
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)