9月28日(水):ラスティ・ネイルの思い出(1)
僕はギャンブルはしないと言ったけれど、これまでの人生で一度だけギャンブルに凝ったことがある。僕が23か24歳の頃だ。
当時、阪急桂駅の西側、南寄りの所に「ラスティ・ネイル」というバーがあった。その店のカウンターにトランプができるようなシートが敷いてあった。そこでブラックジャックをやりませんかと店の人からしきりに勧められて、ギャンブルはしないのだけど、付き合いでちょっとだけやってみることにした。
ブラックジャックというのは、トランプを使うゲームで、トランプの数が合計21になったら勝ちである。21に達しない場合、21以下なら、21に近い方が勝ちである。ただし、21を超えると無条件に負けである。つまり、カードの合計が18と20では、20の方が勝ちとなる。しかし、18と22では、22の方が負けなのである。確か、そういうルールだったように記憶している。
さて、生まれて初めてブラックジャックをやってみる。それが不思議と勝つのである。そして、勝った分、僕は無料酒を飲めたのである。店の人たちはけっこう弱かったのである。
後年、この話を知り合いのバーテンダーさんに話すと、「それが店の人が負けてくれてたのと違うか」と言いました。おお、大人な意見だと僕は思った。でも、負けた時の彼らの真剣な悔しがりようをみると、どうしてもわざと負けてくれたようには思えないのである。
それはともかくとして、大体いつもこんな感じである。最初に千円分のチップを買う。後はこのチップが勝負によって動くだけである。千円勝てば元手が戻ってきただけである。千円以上勝てば、その収益金で酒が飲めるわけで、それが僕の利益になる。そして、前述のように、けっこう僕が勝つのである。ひょっとして僕はギャンブルに強いのかもという錯覚を起こしてしまったくらいだ。
でも、僕が勝ったのは、僕がギャンブル運に強いからではない。彼らが無謀だったからである。最初に配られたカードが8だったとする。そこでもう一枚カードを要求する。今度のカードが10だとすると、これで合計18になる。これでも十分勝てる数字である。僕だったらここでステイする(次のカードを貰わないこと)。それで勝とうとするなら、次のカードは3以下でなければならない。僕はそこでステイするけれど、彼らはそこで「イッてまえ」と言わんばかりにカードを取る。そして4が出たりすると、「アカン、ドボンや」などと言って、真剣に嘆くのだ。
こうして、僕のギャンブル運よりも、彼らの無謀なやり方のお蔭で、僕はけっこう無料の酒を飲んだものだった。会計すると、最初の一杯目だけを現金で払って、あとはチップで払ったというようなこともあった。僕にとっては素晴らしいお店だったのだけど、当然、こういう素晴らしいお店は長続きしなかった。明日はその辺りのことも述べてみようと思う。
(寺戸順司―高槻買う根リングセンター代表・カウンセラー)
(付記)
ラスティ・ネイルか。懐かしいな。経営感覚に乏しいマスターたちがやっていたお店だ。お店としてはアカンところがいっぱいあったけど、楽しかった。僕の中では忘れることのできないお店になっている。もう、こういうお店と出会うことがなくなっている。
(平成28年11月)