9月10日(金):キネマ館~『いいかげん馬鹿』
山田洋次監督、ハナ肇主演の馬鹿シリーズ第2弾。ヒロインは岩下志麻さんだ。舞台は日本本島から離れた島。戦時中に疎開してきた女の子の目を通して島の歴史が綴られる。
都会から来たこの子は島の子からは馴染めず、イジメられたりするが、彼女の心にいつまでも残っているのが安さんだ。安さんは彼女を元気づけようとして船を出したのだが、その船が流されてしまい、安さんは父親から大目玉を食う。その後、安さんは島を捨ててどこかへ行ってしまった。
それから数年後、あのお嬢さんも大学生になった時、島に安さんが帰ってきた。都会の楽団を率いて生まれ故郷の地を踏んだのだ。ふるさとに貢献したいと、島の人たちに文化的な楽しみをと、そう意気込む安さんだが、楽団の演奏はムチャクチャに。挙句の果てに楽団員が旅館の代金を踏み倒したので、安さんは旅館で働く羽目に。安さんの株はがた落ちとなる。
ある日、その旅館に一人の男がやってくる。都会の工場で働く女工を募集しているということである。安さんはその男に見覚えが。そうだ、ヌード劇場のスカウトマンだ。さっそく、安さんはこの男に挑みかかり、その正体を暴く。こうして安さんは村の娘さんたちを守った英雄に。再び安さんの株が上がる。
以後、安さんの株が上がったり下がったりする。ブラジルに行って一旗揚げると言っては、ブラジルまで辿りつけず、島に舞い戻る。釣り客を島に連れてくると、それが有名な作家さんだと分かり接待するも、それが有名な作家さんではなくて間違いであるということになると安さんの株がガタ下がりするのだが、実は本当に有名な作家さんだったということがわかると再び安さんは島の英雄に持ち上げられる。万事が万事、こんな調子である。
島が有名になると、観光事業に力を入れるようになる。本島からの観光客を呼び込むため、島が開発されていく。自然破壊、環境破壊の問題がここに絡んでくる。
安さんは安さんで、観光客に喜んでもらおうとしてやったことが失敗し、島にいられなくなる。安さんが不在の間に、育ての父親は独りひっそりと死を迎える。
島に住む人も増え、子供も増える。彼女は学校の教師となる。修学旅行で大阪に訪れた時、聞き覚えのある声が。路肩でテキ屋稼業しているのは誰あろう、安さんである。こんなところで再会した二人であったが、ガサ入れの警官に追われて去って行く安さん。安さんとはその後、会うことはなかったとのことである。
大体、こんな話である。自然破壊、環境問題、都市化問題、高齢者の孤独死などといった問題もそこに絡んでくる。豊かな自然が開発のために失われていく。それはふるさとの喪失体験となる。ふるさとに対するエレジーが本作の主軸であるように思う。
ハナ肇さん演じる安さんであるが、孤児という設定である。漁師の父親は実の親ではない。母親はいない。それだけでなく、彼は母なる海とも母なる大地ともつながっていない。彼が根無し草のようにしか生きられないのはなんとなく頷けるように思える。そして、この故郷喪失感は現代人の我々の問題であるかもしれない。
劇中、室生犀星の「ふるさとは遠きにありて思うもの」という詩が効果的に使われる。どこで何をしていようと安さんの心は生まれ育ったふるさとにあると思いたい。
僕の唯我独断的評価は4つ星だ。なかなかいい作品だと感じた。
(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)