<テーマ93> 録音(1)

 

 私のカウンセリングでは、原則として面接内容を録音します。テープ録音します。録音されたテープは、そのクライアントが継続して来談している限り保存することにします。あるいは、3年ないし5年は保存することに決めております。そして古い分から順に再利用するか、廃棄するかという形で処分します。

 録音されたテープに関しては、私自身、外へ持ち出さないようにしております。また、聴きなおす場合は、音が外に漏れないよう、必ずヘッドフォンを使用しております。

 また、このテープは私以外の人間が聴くということはあり得ません。他の人が(あるいは面接を受けた当のクライアントが)、テープを聞かせて欲しいと依頼してきても、私はそれには応じないことにしています。

 

 保存期間について補足しておきますと、あなたが私のカウンセリングを受けるとして、私はあなたとのやり取りの模様を録音します。継続して来られることになった場合、毎回テープ録音します。もちろん、その都度了承をいただくようにはしています。録音機はあなたの目に見える場所に置くことにしています。

 継続して受けていたあなたが、カウンセリングを終結します。3年ないし5年というのは、この終結時から数えることにしています。一旦、終結して2年後くらいにあなたは再びカウンセリングを受けるとします。私はこれは継続であるとみなしますので、この二度目のカウンセリングが終結した時点で、再び数え直すことになります。

 あなたが一旦終結して、3年、もしくは5年以上後に再びカウンセリングを受けるとします。その場合、私はそれを初回面接として数えます。3年から5年以上間が空いて、再びカウンセリングを受けるということは、それは前回の継続として見做すよりかは、あなたは以前とは違った事柄のために受けに来ているというように見做します。

 

 録音したテープをすべて聴きなおすということは、時間的に無理があります。必要に応じて聴きなおすことにしております。それでも初回面接分は必ず聴きなおすようにしております。では、初回面接以外で、どんな場合に聴きなおすのかということですが、それは後々述べていくことになるかと思います。

 また、カウンセリングというものはクライアントとのやりとりを必ず録音されるものなのだというように早合点していただかないようにお願いする次第であります。私は、私の必要から録音するということに決めているのでありまして、他所では録音しないところの方が多いのではないかと思います。

 

 以上のことは、録音したテープの取り扱いについての話であります。気にならない人にとってはあまりどうでもいい事柄であるかもしれません。それでも、一応、私は録音したテープをどのように扱っているかということをここに明示しておきます。

 

 テープ録音の目的、理由は主に三つほどあります。それは(1)クライアントのものも含めて、私の言葉づかいを自分自身で聞くというため、(2)私の無意識的な敵意に早期に気づくため、(3)クライアントの反応を見るため、であります。本項では(3)について、この後、述べていくことにします。

 旧サイトにおいて、私は故意にテープ録音のことは伏せていました。テープに録音しますということをどこにも書かなかったのであります。それはなぜかと言うと、その時のクライアントの反応を見たかったからであります。

 私のサイトを見て、クライアントは私のカウンセリングを自分なりにイメージされるだろうと思います。当日、来談して、初めてテープ録音するということを知らされるのであります。これはクライアントにとっては予期しなかった出来事であります。この予期しなかった出来事に対して、クライアントがどのような反応を示し、どのようにこの状況に適応していくかということを私は見ようとしていたのであります。少々意地悪なやり方だったとは思いますが、これはクライアントに関して非常にたくさんのことを教えてくれるものでありました。

 私の見てきた限りでは、速やかにテープ録音を承諾してくれるクライアントほど、より安定しており、その他の場面においても適応がいいのであります。それは適度に私を信用してくれていることであり、人や世界に対する信頼感を獲得できていることを表しているように私は捉えております。

 一方、不安の強い人ほど、不信感が強い人ほど、テープ録音に抵抗感を示すのであります。録音したテープはどうなるのか、録音してどうするつもりかとしつこく尋ねられたクライアントもおられました。彼がいかに強い猜疑心を抱いていたかということは容易に見て取れることであります。

 中には録音されることを非常に喜ぶクライアントも見かけます。そのようなクライアントの一人は、自分に関する物をカウンセラーが残しておいてくれるということがとても嬉しいようでありました。私は、このクライアントの態度から、この人がどれほど孤立しており、日常生活において、自分自身を大切にしてもらえているという感じが得られないでいるかということが思いやられたのでした。そして、そのことは後々の面接において、やはり同じようにその人の話の中に現れているのでした。

 そして、一部のクライアントは録音されることを完全に拒否されます。録音されるくらいなら止めた方がましだと言って、受けずに帰られた方もおられました。録音を拒否するか、カウンセリングの方を拒否するかをされるのであります。私の経験では、録音を拒否するクライアントは、大抵予後が悪いのであります。テープがあるということは、私にとっては振り返りの材料となるのですが、それがないということも不利になってしまうのであります。それ以上に、クライアントが抱えている必要以上の恐れのために録音を拒否されているためなのであります。テープ録音に抵抗なく許可してくれる人と比べて、この人たちがあまりにも強すぎる恐れを、私に対して、抱いているのであります。このような人は、テープ録音に不安を覚え、拒否しているのではなく、その人が既に抱いている私に対しての恐れが、テープ録音ということにまつわって表れているのだと、私は捉えております。

 

 今後とも私は面接を録音していくつもりでおります。その管理は私が責任を持ってしなければならないことであります。今回のサイトでは、録音しますということをはっきり伝えておりますので、これから受けようと思われる方はその心つもりをしておいてください。

 今回、これを書くということは、クライアントに予期せぬ場面に遭遇させて、その反応を見るというやり方を、私が既に放棄しているからであります。そのような「実験」に頼らなくても、私には分かってきたものが増えてきたためであります。

 

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー

 

 

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