12年目コラム(81):認知心理学
臨床心理学に踏み入る前に、認知心理学に凝った時期が僕にはある。心理学では「認知」という言葉を使うのであるが、認知心理学とは、情報処理や言語、記憶、問題解決などの領域を研究する心理学分野である。
結局、認知心理学も一時的に凝ったという程度で、僕はこれを放棄してしまうのであるが、そこで学んだことは、あながち役に立っていないわけではない。
そこで、一つ問題を出してみよう。
今、川のこちら側に4隻の船がある。この4隻を30分で対岸に渡航させるのであるが、渡航時間がそれぞれ異なっている。4隻はそれぞれ片道2分、4分、8分、16分かかる。一度に牽引できるのは1隻だけである。その際、時間の多い方の時間が要される。
こういう問題である。つまり、2分の船で4分の船を牽引した場合、片道4分かかることになる。そして対岸からこちら側に2分の船で帰ってきた場合、その2分も加算される。
この問題は、実際にコインでも4枚用意して、現実に動かしてみれば、何度目かの試行錯誤で解決できることが多いようだ。現実に、僕は10人くらいの人にこの問題を解いてもらった。彼らは間違えるのだけど、最終的には解くことができるのである。興味のある方は、ここで読むのをストップして、実際に解いてみられるといいでしょう。
以下、解決の手順を述べる。
(手順1)2分の船で4分の船を牽引して対岸に向かう。(要4分、計4分)
僕が観察した限り、誰もがこの手順から始める。
(手順2)4分の船を対岸に置き、2分の船で戻ってくる。(要2分、計6分)
ここも問題なくクリアできる。ところが、次の手順で間違える例が多い。
(手順3)2分の船を置き、8分の船で16分の船を牽引する。(要16分、計22分)
よく間違えるのは、ここで2分の船で8分の船を牽引してしまうというものだ。これは要するに、2分の船が一番速いので、これを置くことはマイナスのように感じられてしまうということである。ここに一つの抵抗があるわけである。
(手順4)8分と16分の船を対岸に置き、4分の船で戻ってくる。(要4分、計26分)
ここも間違える例が多い。と言うのは、目標は4隻を対岸に置くことなのである。従って、4分の船で戻ってくることは、一旦達成した目標から遠ざかるように感じられるからである。一旦、向こう側に置いた船で戻ってくるというのは、後退のように思われたり、マイナスの作業のように見えてしまうわけである。
(手順5)2分の船と4分の船で対岸に向かう。(要4分、計30分)
これで4隻とも対岸に置かれることになる。渡航時間は30分ちょうどである。
こうした問題解決なんかを認知心理学では扱うのであるが、僕が思うに、人はこうした問題を解決できるのである。ただ、それに抵抗するものがあるというだけなのである。それは、例えば、一見すると後退のように見えたり、遠回りのように見えたりするのである。それが抵抗感として働くために、それを問題解決の手段とか過程として組み入れることができなくなってしまうということなのだ。
こうしたことは心の問題においてもよく生じるのではないかと思う。
(中絶)
(寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)