<#016-28>「予約を取りたい。受けるのは私ではありません」
<Q>
「予約をお願いします。受けるのは私ではありません」
<状況と背景>
これは要するに、カウンセリングを受ける本人(以下、本人)に代わって、家族や友人(以下、代理人)が予約を取るというケースです。
<A>
「それなら本人さんに予約を取るようにしてください」
<補足と説明>
このような代理予約の場合、本人がカウンセリングを望んでいるのか否かによって、違った風に考える必要が生じるのですが、基本的に、このような形では予約は取らないことにしています。
予約は一つの契約であり、本人と私の直接交渉で成立するものです。そのような形をとるのが望ましいと考えているのです。だから私も代理人を間に挟むことはしたくないのです。
従って、このような問い合わせを受けた場合、私は必ずご本人様に電話をしていただくよう代理人にお願いしています。もし、ここで代理人との間で契約を成立させてしまうと、責任の所在が不明確になるだけでなく、本人のことを本人抜きで決めているような罪悪感を私は体験してしまい、とても不快なのです。
また、代理人による予約はすっぽかされる可能性も高いことが経験上分かっているのです。自分で予約を取っていないので、本人は責任性をあまり感じないのかもしれません。
臨床家と直接交渉して予約を取るというのは、確かに緊張感を高めてしまうことでしょう。私も若い頃に経験しました。不安と恐れの入り混じった気持ちを抱え、何度も躊躇し、ようやく思い切って予約を取ったという思い出があります。
私がそういう辛い経験をしているので、クライアントになる人にはできるだけそういう思いをさせないようにしようと考えていた時期もありました。でも、結局のところ、クライアントにとって、そこは最初の難関であって、ここを通過できないようではその後のカウンセリング過程で生じる難関も乗り越えられないものだと知るようになりました。
だから、代理人を挟んでまで予約を取る人は、初めからカウンセリングを受けない方がましだと、そのように今では考えています。本人はカウンセリングに耐えられないだろうと思うからであります。
しかし、どうして本人は代理人を間に挟まないといけないのでしょう。その辺りの事情を聴くことがないので私としては何とも言えないのですが、おそらく、その人にはカウンセラーよりも医師の方が適しているでしょう。というのは、電話をかけるという行為に支障があると仮定すれば、日常生活に必要な行為がそこまで障害されているのであれば、その人には医療的処置が必要となるからであります。
ところで、このようなケースにはいくつかのヴァリエーションがあります。共通して言えることは代理人は本人とともに「症状」を形成しているということです。もしくは、代理人は本人の「症状」の一部を担ってしまっているということです。このことを考慮しながら、いくつかの変形を見ていきます。
カウンセリングを本人が望んでいて、本人が代理人に予約を頼むパターンがあります。これは本人が望んでいるのにお膳立ては他の人に頼んでいるわけです。ある意味では本人の責任回避であり、ある意味では代理人との一体感の獲得であるようにも思います。後者は、つまり、「私はカウンセリングを望んでいる。あなたも私がカウンセリングを受けることを望んでいるでしょう。だから予約を取って(手伝って)ちょうだい」という意味であり、そこでは両者の境界が不鮮明になっているということです。
また、本人がカウンセリングを望んでいるのに、本人が動こうとしないので、代理人が代わりに予約を取るというようなパターンもあるでしょう。この場合、本人はどうすれば代理人が動いてくれるかを知っているという例もあり得るでしょうし、代理人が待てないという問題を抱えている可能性もあるでしょう。
次に本人が望んでいない場合があります。この場合、代理人が積極的に働きかけて、本人がほんのわずかでもそれに興味を示した途端に代理人が早急に行動を起こすという状況もあるでしょう。これは代理人が先走りし過ぎているということですが、代理人は本人にかなり手を焼いているといった背景があるかもしれません。
ひどい場合には、先に代理人が予約を取っておいて、それから本人を説得するという例もあります。つまり、「もうすでに予約を取ってしまったから、何が何でも受けにいきなさい」という説得をするわけです。本人の逃げ道を塞ぐのです。その策略の片棒を担がされるのかと思うと、私も自分がイヤになる思いがします。
最悪の場合には、予約を取った人が代理人であるということを言わないこともあります。この場合、予約を取った人と全然別の人が当日やって来るのです。
こんな例があります。最初に予約を取られたのは年配の女性でした。私はその人が来られるものとばかり信じていました。ところが、当日、予約の時間に現れたのは若い男性でした。訊いてみると、予約を取ったのは彼の母親だったそうです。この時点で、私は彼にお帰りいただこうかとも思いました。でも、彼は彼で、母親がここを調べて予約を取ったので、母親の期待に背くわけにはいかないという思いがあったのでした。それに、受けに行ったけれど追い返されましたでは、彼の顔を潰すことになりそうに思われたので、非常に不本意ながら、私は一回だけ彼の面接を行ったのでした。
さまざまなヴァリエーションがあるのですが、基本的に、代理予約は私には不愉快でしかありません。代理人が予約を取ったのだから、代理人が面接を受けに来たらいいのです。それなら筋が通るのであります。
それを、自分が予約を取って、他人に行かせるわけだから、その人からはどう映ることでしょう。そういう姿をその人に見られているという意識は低いのかもしれません。つまり、代理人は本人さんの手本となるようなことをしていないのであります。こういう代理人はいずれ本人さんからの信用を失することになると私は思うのであります。
(文責:寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)