<#016-19>「気に入らないので行きません」
<Q>
「気に入らないのでカウンセリングを受けません(又は続けません)」
何が気に入らないかは不明であるか漠然としていることも多い。
<状況と背景>
はっきりとこのように申されたわけではないのですが、敢えて言葉にすればこういう文章になるでしょう。予約を取る際に私の対応の何かが気に障って来られなくなるのです。そして、こういう現象は他の同業者からも耳にすることがあります。
<A>
私自身もいろいろ反省する点が多いのですが、私の場合、一人できりもりしているので、電話に出る時にも、常に落ち着いて対応できるわけでもなく、自分でも非常に困ったものであると思う次第であります。
慌てている時もあれば、もう間もなく次のクライアントがお見えになられるという状況で電話に出ることもあります。食事の最中に電話に出る時もあれば、トイレに行こうとしていた矢先にかかってきた電話を取ることもあります。
私は私で自分の対応を反省する次第ですが、ここではそうした自己弁護はさておき、この問いに対する私の答えは「それなら止めておきなさい」ということです。
そんな答えをしていると、またどこかから「偉そうだ」とかいろいろ言われそうだけれど、それが私の正直な応答です。最初の問い合わせの時に気に入らんことがあったといって止める人は、実際に来られても不愉快な思いをされるだけでしょう。それなら最初から止めておく方が賢明というものです。
カウンセリングでは、しばしば自分の嫌な部分も見てしまうという経験をします。できるだけ穏やかにそれをしていきたいとは思うのですが、必ずしも心地いい経験ばかりではないと覚悟される方がよろしいでしょう。私もまたそのような経験のみをクライアントに約束するつもりはありません。応援団やチアリーディングのような真似をするつもりは、私にはありません。
<補足と説明>
どういうタイプの人がそういうことをするのかに関しては、私は定かなことは言えません。実際にお会いすることなく終わることが多いからです。
例えば、こういう人も中にはいらっしゃることでしょう。その人は、まず「ここは良さそうだぞ」と思って電話をかけるのです。その時の対応で不満を残し、「そのせいで行かない」という選択をされているのです。その人は、「自分にとって良いものを、わずかの不満で、すべて悪いものに変えてしまう」という問題を抱えているのかもしれません。
また、恐れが強くて、電話での対応で安心できなかったという人もおられるかもしれません。この恐れは基本的にはその人の中にあるものです。本当ならその恐れに対処していかなければならないはずなのですが、恐れをもたらしたから行かないとか、信用しないとかいう事態になっているのかもしれません。でも、それで「止める」という決断をされても、その人の根本的な問題は手つかずのままなのです。
こんな例もあります。他所の対応が悪かったということを、私のところに電話して訴えてくるのです。そこはそこのやり方や考え方があるでしょうから、私は何とも言えないのです。問題は、以前に電話をかけたところの不満をいつまで持ち続けているのかということです。そして、なぜ、そことは無関係の私に訴えずにはいられないのかということなのです。どこか粘着的と言いますか、強迫的な傾向のある人なのかもしれません。
対応が拙かったと言って怒り出す人もあります。明らかにこちらが不適切な言い方をしたとかいうのであれば分かるのですが、聴いてみるとどうもそういうことではないようです。
実は、この問いのような問題に悩んで、私は電話でのやりとりを録音していた時代がありました。今はそれはしていないのですが、無断キャンセルなんかをされた後にはその時の電話でのやりとりを聞き直したりしたものでした。
電話対応においても、ある程度、自分のパターンというものがあります。料金を説明する時の言い方とか、道順を教える時のスタイルというものがある程度確立されているものです。
大体、他の人に対しても同じような言い方をしていて、他の人はそれがそんなに不満ではないのに、その人にとってはそれが不満だったとすれば、この言い方はその人の何かに触れてしまっているのだと思います。そこに何があるのかを検討していくことが大切だと私は思うのですが、そちらの方向には向かわず、「止める」という手っ取り早い解決を採択してしまうのでしょう。
また、怒りだす人の中には、「支配的」な人も多いかもしれません。相手の対応が気に入らないと言って怒り出すというのは、その人の「基準枠」から外れる他者に対して我慢がならないということでしょう。そして、自分の「基準枠」内に相手を収めようとして、怒りだしたり、さまざまな要求を突き付けたりすることもあるわけなので、これは相手を「支配」する行為といえるのではないかと思います。
対応のちょっとした何かに不満を残す人の中には、ストレスでいっぱいいっぱいだという人もあるかもしれません。実際、場面は違いますが、なんでそれくらいのことで怒るのと言われ、ストレスを抱えているからだとおっしゃられた人も私は何人か知っています。
ストレスをいっぱい溜めこんでいて、些細なことに我慢がならず、ちょっとしたことで癇に触るという人もおられるのですが、これは本当は話が逆なのです。些細なことに我慢がならず、ちょっとしたことで癇に触るからこそ、その人はストレスを溜めこまなくてはならなくなっているはずなのです。
どちらが先かという議論は脇に置くことにして、この見解を述べる人、もしくはそのように体験している人は、自分自身の何かにもっと目を向ける必要がある人かもしれません。
他にもいろいろ考えられるでしょうが、これくらいにしておきましょう。
肝心な点は、私の対応に拙い点があったとしても、それは私の問題なのであって、問い合わせをした人とは関係がないことです。それとは別に、なぜそれがそんなに不満を残しているのかということは、その人自身の何かと関係があるので、それを検討していく方が有意義だということです。
(文責:寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)