<#015-10>2回目面接解説編(1) 

 

 初回面接から二か月ほど開きがあります。私の中ではSさんはもうお見えになられないかなと思い始めた時期に彼から電話があったのでした。 

 この時、S氏が「私のことを覚えてますか」という質問をされたのを覚えています。この問ですが、これが二年ぶりに会うということであれば字義通りに受け取っていいでしょう。二か月程度なら、この問は「私のことを怒ってませんか?」とか「私のことを拒否してませんか」などといった意味合いが含まれている、あるいは間接的にそれを問うていると考えることもできるように思います。S氏の場合、そうであったと私は考えています。面接場面で語られているように、この電話をかけたのはS氏が妻たちと悶着のあった翌日のことでした。その時の感情を幾分引きずっていただろうとも思われるからです。 

 詳しい説明は後に譲ることにして、前回同様、面接の模様を再録しながら考察したいと思います。 

 

 (1)T:その後、いかがですか。 

 (2)S:あれから・・・たいへんだったんですよ・・・(何か感情を抑え込んでいる感じがある)・・・なんというか、先生の言う通りのことが起きて・・・ 

 (3)T:どういうことでしょうか。 

 (4)S:(要約:初回面接後、彼はDV専門の治療者のところを受けたようである。これは妻と義母が推しているところである。しかし、彼はそこはそぐわない、自分の求めているものがないように感じたようです。最初に治療者が講義のようなことをするらしく、彼が訴えたいことはその時には十分に訴えられなかったと言います。それでも彼は妻と義母の要求には従ったのです。最初に彼の要求を通したので、妻と義母の要求に従うのも仕方がないことだと彼は思っていたのです。だからそこも一回は受けるつもりでいたようでありました。ただ、妻たちはそこを継続するようにと求めてくるのです。そこで2回目を受けるなら、高槻のカウンセラーでも2回目を受けさせてほしいと彼は頼むが、「あそこは一回で十分でしょう」などと義母に言われ、彼の要求は却下されたといいます。その後も彼の望むところのものは却下され続けているとのことでした。そのDV専門家のところへは行きたくないと彼が言えば、それなら病院を受診しろなどと妻と義母は求めてくるという。彼は高槻のカウンセリングを受けたいと再三訴えるが、妻・義母は耳を貸さず、挙句の果てに、高槻のカウンセラーはダメだなどと悪口を言うようになった) 

 (解説)最初に私から働きかけ(1)、次に彼が話そうとしているのですが、感情を抑え込んでいる印象を私は受けました(2)。どこかイライラして、ソワソワしている感じがあり、それが口調にも現れています。つまり、感情を爆発させないように話そうとしているので、口ごもる感じになっているように私には思えるのです。そして、不愉快な感情をそこまで抱え込めるということは、とりもなおさず、彼が人格障害である可能性を否定するものであります。 

 S氏は私の言う通りのことがあの後で起きたと言います(2)。そのいきさつが(4)で語られます。ここでは彼の要求と妻・義母の要求との不公平さが述べられています。 

 肝心な点は、妻と義母がスプリッティングをやらかしている点にあります。つまり、一方が絶対に良くて、他方が絶対に悪いという認識の基礎に見られるところのものであります。この場合、妻・義母の推しているところは彼女たちにとって絶対的に善であり、私のところは絶対的に悪になっているわけです。 

 ところで、妻と義母は彼のことを人格障害圏の人とみなしているのでした。私はそうではないと確信しています。これを読む人からすると、S氏は私のクライアントなので、だから私がS氏を弁護しているように見えてしまうかもしれません。そうではなく、彼が人格障害圏の人ではないと私が判断する根拠が随所に見られるのです。記述が煩雑になるとは思うのですが、逐一述べようと思いますのでご了承願いたく思います。 

 まず、今回の面接は前回の二か月後でした。二か月のブランク期間があるわけです。(4)において、彼はこのブランク期間に起きたことを私に話しています。ここに重要なことが二点あるのです。 

 一つは、この二か月間に起きたことを彼は現実に体験しているので、それは彼としてはよく分かっていることなのです。それを私に説明して、私に分かるように話そうとしているのは、彼が「自分はよく分かっていることだけれど相手は分かっていない」ということが分かっているということを示しているのであります。このことは、要するに、彼の中で自他の区別がしっかりついていることを伺わせるのであります。 

 自他が未分化な人の場合、自分がよく分かっていることだから、相手も当然のように分かっていると思い込んでしまうことがよくあるのです。だからと言いますか、こういう人の話は分かりにくいのであります。相手も当然知っていると思い込んで話しているので、エピソードが省かれたり、肝心な箇所が最初から語られなかったり、あるいは話が大きく飛躍したりするのであります。それで、こちらが分からないと伝えると、初めて相手に通じていないということを知って、驚愕されることもあるのです。 

 二つ目として、彼がブランク期間のことを継起的に語ることができるのは、彼に時間体験がしっかりできていること、あるいは同一性の感覚を保持できていることを表しているように私には思われるのです。 

 この点に関して、分かりやすいので、ある女性クライアントを引き合いに出しましょう。この人は精神病水準の人であると私はみなしている人であります。この人はいつも最近の一週間くらいの経験を話されるのです。予約を取る時期に経験した事柄を話されるのであります。半年ほどブランクが空いた後の面接でもそうなのであります。感覚的な事柄なので上手く伝わるかと危惧しているのでありますが、このような感じの人は時間体験が分断されているという印象を受けるのであります。それは自己の同一性が明確ではないからではないかと私は思うのであります。こういうことがあった、ああいうことがあったということを彼女は話せるのでありますが、そこには継起の感じ、時間的な流れとかエピソード間のつながりであるとか、そういう連続性を感じさせないのであります。体験された出来事はすべて断片化しているわけであり、それらを統合する自我の力が弱いという印象を受けるのです。 

 以上を踏まえて、(2)での感情抑制の感じといい、(4)に於ける自他の区別と同一性の感覚といい、ここでも彼が人格障害圏の人ではないことを示す証拠がみられるのであります。 

 次に、妻と義母たちにも目を向けようと思います。(4)のエピソードにおいて、加えて、その後に述べられるエピソードにおいて、妻と義母の態度が変化しているという印象を私は受けるのです。その他の要因もあるかもしれないので、彼の話だけで判断するわけにもいかないのでありますが、私は次のように考えています。 

 彼がDV専門の治療者を訪れたことは、妻・義母の望むところのものと一致しているのです。おそらく、彼女たちにしてみれば、これで安泰だと思われていただろうと私は思うのです。 

 最初のきっかけは、S氏が高槻のカウンセラー(つまり私)のことを口にしたことでした。義母の反応は「あそこは一回で十分でしょう」というものでした。あたかも、そこはもう終わったことなので、何を今さら持ち出すのかといった印象を私は受けるのです。義母にとっては青天の霹靂といった感じでしょうか(A)。 

 これに対する反応として、以後、彼の要求は却下され、DV専門のところに行かないのであれば病院に行けなどと義母たちは応じます。高槻のカウンセラー(つまり私)のことを彼女たちは極力回避しているように私には見えるのであります。そこを持ち出してくるなといった感じではないかと思います(B)。 

 そして、最後にはどうなるかと言いますと、高槻のカウンセラーは良くないとか、あのカウンセラーは加害者の味方をするなどと非難し、妻もまた悪しざまに罵るのだそうであります(C)。 

 ABCという流れを追ったのですが、義母たちにとってはS氏が高槻のカウンセラーを持ち出してくるとは予想していなかったかもしれないと私は考えています。だから(A)においては義母にとっては驚愕体験だったかもしれません。非常に不愉快な感情体験をしたのかもしれません。 

 この不愉快な感情体験に基づいて、彼の要求はなんでも却下されるという極端な傾向を義母たちは示すのでありますが、これは不愉快な感情体験をもたらすものを回避したい気持ちの表れであるように思えてくるのです。そして、私には硬直した反応のように見えるのであり、不愉快な感情を持て余しているようにも見えてくるのであります。つまり、その不愉快な感情に対して、融通性を欠き、紋切り型の硬直した態度で対応しなければならなくなっているように見えるのであります。 

 そして、Cになると、義母も妻もはっきりと悪感情を吐露していきます。従って、この流れを分かりやすく述べるなら、義母と妻はS氏の言葉から不快感情を体験して、その不快感情をどうすることもできず、悪感情が増幅していき、悪感情に支配されていっているように思われるのであります。義母たちの中でそのような流れが生じているように私には思われるわけであります。 

 既述のように、S氏の話だけでそのような解釈をするのは公平とは言えず、その他の要因が働いている可能性も否定できないのであります。私の解釈の正否は別としても、妻と義母たちが悪い感情に支配されていき、その態度に変化が見られているように思われるのであります。 

 

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)  

 

 

 

 

 

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